2017/03/27 更新   コラムのトピックス

ホルモン補充療法の目的は、更年期障害の治療だけではなくなりました。閉経している女性に使うと、多彩な効果があります。血管が年を取らない、骨が年を取らない、皮膚が年を取らない、呆けにくい、癌になり難い、平均3年ぐらい長生きする、などなどです。どうも女性の体は女性ホルモンによって守られているようなのです。子孫を育てるための自然の仕組みなのでしょうか。

ホルモン補充療法で女性がますます元気で長生きすると、更に男女差がひらくことになりますから、いろいろと問題があるのかも知れませんが、世界的には非常な勢いで普及しつつあります。ところが日本は、増えてきたとはいってもまだ閉経女性の2%くらいで、先進国のなかでは際立って少ない。ちなみに韓国や台湾では10倍くらい普及しているし、欧米では閉経後の女性の大半が受けているのが現状です。

なぜ日本人に普及していないかというと、一つには根強い自然志向があると言われます。しかし考えてみてください。神様は人間の雌の体の耐用年数を50年くらいに設定しているようです。500万年前の医学もない栄養状態も悪い時代の人類を想像して貰えば分かるでしょう。其頃と今の遺伝子にはほとんど違いがないのです。ところが今や日本人の女性の平均寿命は85歳といわれています。神様からみたら不自然な事に、50歳すぎてからまだ35年間もの人生があるのです。自然志向で衰えていっては決して快適な人生は送れないでしょう。そこで不自然ついでに閉経後のQOLを良くしよう、ついでにもっと寿命も延ばそうではないかというのがHRTなのです。せっかく文明の発達した時代に生れ合わせたのですから、これを利用しない手はありません。

ただし、副作用はあります。それは当然と言ってよいかも知れませんが女性特有の病気が増えるのです。それは乳癌と子宮体癌です。これらは初潮から閉経までの期間に比例するといわれますから、ホルモン補充療法をすれば当然その期間が延長されたと同じことになり、その分発症率が増すのは仕方のないことです。他には静脈血栓症が上げられますが、これは非常に肥満した女性に起き易い病気で日本人には稀です。乳癌と子宮癌になる確率が増すと言われただけでしり込みする人が数多くおられます。無理もないこととも思いますが、総ての癌についてみると減少するのです。とりわけこの二つの癌は、その他の癌に比して検診が容易で早期発見しやすく、またその場合治療が比較的容易で、しかも命を落とすことはまずありません。ちなみに早期発見が難しく、治療が大変で、命を落としやすい癌の代表は肺癌や膵癌です。他の癌になるのは良いが、乳癌だけはなりたくないと言う人がもしおられたら、その人はホルモン補充療法をやめるべきでしょう。

というわけで、ホルモン補充療法は非常に有益ですが、処方する医師からみたらもしその方に乳癌が発生したときに1%くらいの責任は感じる事になり、これが乳腺の定期検診をお勧めするゆえんでもありますが、これを機縁に乳腺健診を受けるのも現代の趨勢からしても有意義だと言えます。

定期健診が前提となりますが、QOLの高い長生きを目指して、もっとホルモン補充療法が普及するが望まれています。