2022/01/16 更新   排便講座(連載)のトピックス

 歳を重ねるにつれて便秘がちになってきますが、どうしてか考えたことはありますか?歳をとれば体も弱るし、腸も弱るからだとあきらめていませんか?市販薬やかかりつけ医で下剤をもらってなんとか対応している方々も多いと思います。また医療者も便が出ないなら下剤を処方、しかも反応性が高い刺激性下剤を処方したり、さらには浣腸液まで処方することもあります。厚労省が発表している国民生活調査によると50歳代までは女性の方が便秘が多いものの、60~70代では男女が拮抗し、80歳以降ではむしろ男性の方が多くなっています。そして70歳以上では実に70%以上の方が便秘を訴えていることが示されています。(図1)女性は若い頃から便秘に悩むことが多いため、市販薬の活用などで自分自身で便秘をコントロールすることに慣れていることが多いのに対して、男性はその経験に乏しく、食事も自分で作らないため工夫する術にも乏しく、高齢になって初めて自分自身での対応に困ることが多い印象です。

 今回は高齢者の便秘の原因について根本的に考えてみました。特に高齢者では多岐にわたる要因が複雑に絡み合っているため、簡略化したり、図で表現することが困難ではありますが、私なりに整理して箇条書きのように表現してみると図2のようになります。個々の内容については機会があれば今後の連載でとりあげるつもりです。大きな要因として社会背景、生活様式、身体的因子の3つに分けましたが、本質的にそれぞれ線が引けるわけではなく相互に複雑に関係しています。特に高齢者では様々な基礎疾患があることでその治療薬やそれ以外の要因に悪影響を及ぼして便秘をさらに悪化していることが多くあります。医療者や患者自身も病気や内服薬については日頃から気にされていることは当然ですが、特に生活様式については特別配慮されているわけではありません。しかし、便通においてはこの生活様式が最も重要な因子であり、しかも改善の余地があります。自分自身に置き換えてみても思い当たる点はいくつかあると思います。水分摂取においても、便の80%は水分であり、しっかり水分摂取を心がけることや厚着をして家の中でじっとしておらず、まずは軽い運動からすすんで行うことは医療費もタダであり、誰でもすぐにできます。夜は早めに寝て、朝早起きして、日光を浴び、繊維の多く含まれる食事を心がける習慣から改善していってはいかがでしょうか。医療者も単に排便回数だけの便秘診断や薬や検査データ中心の診療を行うのではなく、図2のように多くの因子を考慮する必要があることを念頭におき、食事摂取、嗜好、生活習慣、排便習慣等について具体的に評価し、特に生活様式については細かく指導していく医療者が増加していくことを期待しています。

図1

図2